こんにちは。大ちゃんです。
今回はゲーム理論におけるゲームの一例である「囚人のジレンマ」について、具体例を挙げながらできるだけわかりやすく説明していきたいと思います。
僕は大学の経済学の講義でこの理論を知ったのですが、囚人のジレンマはゲーム理論を理解するためには基本的な概念であり、経済学のみならず、経営学や社会学、心理学や倫理学など幅広い分野で研究されています。
囚人のジレンマとは?
囚人のジレンマとはゲーム理論の1つで、各個人が好ましいと思い合理的な選択をした結果、社会全体にとって望ましくない結果になってしまう状況のことを指します。
そのような状況を理論で説明した有名な例が今回紹介する「囚人のジレンマ」です。
囚人のジレンマの具体例
それではここからは囚人のジレンマの具体的な例を見ていきたいと思います。
設定
共犯で強盗を働いたと思われる囚人Aと囚人Bの二人が逮捕されました。
しかし、有罪を確定するには証拠が不十分なため、取り調べをする検事は囚人Aと囚人Bをそれぞれ別の部屋に入れて次のような取り引きを持ちかけます。
ただしこの時、囚人Aと囚人Bには同じ条件を提示することとします。
- 君が自白をして、相棒が黙秘をしたら、君は無罪にしてあげよう。(この場合、相棒は懲役3年)
- 君が黙秘をして、相棒が自白をしたら、君は懲役3年とする。(この場合、相棒は無罪)
- 君と相棒の両方が自白をしたら、2人とも懲役2年とする。
- 君と相棒の両方が黙秘をしたら、2人とも懲役1年とする。
この時、囚人A・囚人Bの二人の囚人は「共犯者と協調して黙秘すべきか」、それとも「共犯者を裏切って自白すべきか」、というのが問題になります。
なお、彼らは2人別室に隔離されていて相談することはできない状況に置かれているとします。
果たしてこのような状況のとき、囚人A・囚人Bはそれぞれどのような選択をすれば良いのでしょうか。
囚人Aの視点から考える
ではまず最初に囚人Aの立場になって考えてみましょう。
分かりやすいようにあなたが囚人Aになったつもりで読み進めてみてください。
あなた(囚人A)がとることができる選択肢とその結果(損益)を数字で表にまとめると以下の表のようになります。
囚人B 黙秘 | 囚人B 自白 |
|
---|---|---|
囚人A 黙秘 | -1 | -3 |
囚人A 自白 | 0 | -2 |
この表からあなた(囚人A)にとっては囚人Bがどのような行動をとるかによらず、自白をするのが最適な選択ということになります。
詳しく見ていきましょう。
囚人Bが自白するケース
囚人Bがもし自白をした場合、あなた(囚人A)も同様に自白をすると「懲役2年」(-2)になります。
あなた(囚人A)が黙秘すると「懲役3年」(-3)になります。
囚人Bが自白をするケースでは、
- 囚人A自白⇒懲役2年(表の右下)
- 囚人A黙秘⇒懲役3年(表の右上)
になります。
この状況で判断に迷う人はいません。
「懲役2年」と「懲役3年」の比較ですので、迷うことなく自白をして「懲役2年」(-2)を選びます。
相手(囚人B)が自白をするなら、あなた(囚人A)がとるべき行動は「自白」です。
囚人Bが黙秘するケース
次は囚人Bが黙秘をするケースを想定してみましょう。
あなた(囚人A)が自白をすると「無罪」(0)となり、黙秘をすると「懲役1年」(-1)になります。
囚人Bが黙秘をするケースでは、
- 囚人A自白⇒無罪(表の左下)
- 囚人A黙秘⇒懲役1年(表の左上)
となります。
このケースにおいても、あなた(囚人A)は自白をするべきです。
自白をすれば無罪、黙秘をすれば懲役1年ですから、選択の余地はありません。
囚人Bの視点では…
この時囚人Bにも同じ条件が提示されているので、囚人Aと同じ選択、つまり囚人Bも「自白」をするべきだと考えます。
前項の「囚人Aの視点から考える」の「囚人A」「囚人B」をそっくりそのまま入れかえて読んでいただくと分かりやすいと思います。
ゲームの構造を「2×2の表にする」
ゲーム理論では「囚人A」「囚人B」のそれぞれの利害関係を分析するために起こりうる全てのケースを次のような表にまとめます。
今回の例である囚人のジレンマゲームでは「囚人A」「囚人B」という2人のプレイヤーがいて、それぞれに2つの選択肢(黙秘or自白)を持つので、起こりうる事態は全部で4通り(2×2=4)あります。
ゲーム理論ではこのような表を利得表と言います。
囚人B 黙秘 | 囚人B 自白 |
|
---|---|---|
囚人A 黙秘 | (-1,-1) | (-3,0) |
囚人A 自白 | (0,-3) | (-2,-2) |
数字の書かれた4つのマスが起こりうる4通りの事態に対応しています。
利得表の上の段は囚人Aが黙秘する2つのケース、下の段は囚人Aが自白する2つのケースです。
これに対して左右の列は囚人Bの選択によって左が黙秘、右が自白に分けられています。
前の項で説明した表ではそれぞれのマスに1つの数字しか書かれていませんでしたが、この利得表の特徴は各マスに2つの数字がそれぞれ書き入れられていることです。
利得表の各マスの左の黒で示した数字は囚人Aの状況(利益)、右の赤で示した数字は囚人Bの状況(利益)を表しています。
利得表の見方は、例えば囚人Aが「自白」、囚人Bが「黙秘」を選択したケースは表の左下のマスに当たります。
この場合、囚人Aは0なので無罪、一方囚人Bは-3なので懲役3年の刑になることを意味しています。
このようにそれぞれの利益を数字で表すことで各囚人にとってどの事態がより好ましいかを明確にします。
ゲーム理論の分析はどのゲームにおいても利得表にそれぞれのプレイヤーの損益をまとめることが最重要です。
ゲーム理論を知らない人なら「自白した場合」と「黙秘した場合」の2通りを考え、どちらの方が良いか迷うことでしょう。
しかしゲーム理論では相手の立場も含め全体を俯瞰した4通りのケースを考慮します。
ゲームの結果
さて、これまでの分析から囚人Bが自白しても黙秘しても結局あなた(囚人A)は自白した方が得をするということが分かりました。
また囚人Bの立場でも同じことが言えます。
あなた(囚人A)がどのような行動をとったとしても囚人Bは自白をした方が得をします。
するとどのような結果になるでしょう。
この場合、囚人Aは「自白」、そして囚人Bも「自白」を選択するので利得表で示した右下のマスの結果となり、囚人A、囚人Bともに2年の懲役を受けることとなりました。
全体で考えてみると…
しかしこの時に各プレイヤーの視点ではなく、全体の利益で考えるとどうでしょう。
もし二人の囚人がともに「黙秘」を選択していれば、囚人A、囚人Bともに1年の懲役(左上のマス)で済んだはずです。
全体の刑期で考えてみるとどちらも自白をした場合は(-2)+(-2)で-4、つまり4年ですが、どちらも黙秘をした場合、(-1)+(-1)で-2で2年だったのです。
このように各プレイヤー(囚人Aと囚人B)が最も好ましいと思い合理的な選択した結果、全体にとって望ましくない結果になってしまう状況のことを囚人のジレンマといいます。
まとめ
今回はゲーム理論の基礎となる「囚人のジレンマ」について例を挙げて説明してみました。
冒頭でも書きましたが、ゲーム理論は経済や経営、政治や社会問題など複数の主体間で起こっている利害関係に幅広く応用できます。
例えばあなたと会社との間で起こっている問題も、ゲーム理論の対象です。
この場合、「あなた」と「会社」という複数の主体があり、それぞれが自らの利害を目的に行動しています。
あなたは自分や家族のために働いているでしょうし、会社だって自分たちの利益追求のために戦略を立てているでしょう。
あなたが今の会社の待遇に気に入らず上司と交渉しようか、それとも現状のまま我慢するべきか迷っているとしたら、この状況そのものを「ゲーム」としてとらえます。
このように、ゲーム理論はあらゆる場面に応用できます。
今現在、あなたが直面している問題も間違いなくゲーム理論の対象となるはずです。
最後に
僕のつたない説明で分かりやすかったかどうかは分かりませんが、「もっとゲーム理論について詳しく知りたい!」という方や「囚人のジレンマ以外のゲームも気になる!」という方はこの『ゲーム理論の思考法』という本に例と解説が詳しく書かれていますのでぜひ参考にしてみてください。
ちなみに今回の囚人のジレンマの例もこの本を参考にまとめてみました。
さらにゲーム理論が具体的にどう使われていているのかを理論ではなく感覚で知るにはこちらの『ライアーゲーム』という漫画・ドラマがおすすめです。
物語の内容は「参加者どうしで1億円を争奪する、ハラハラドキドキの心理戦が繰り広げられる」という現実ではあり得ない設定の内容ですが、この中に登場するそれぞれのプレイヤーがゲームおいてどのような選択を取るか戦略を立てたり逆に悩んだりするシーン、またゲームの結果、なぜそのような選択をしたのかを解説するシーンはエンターテイメントとしてのみならず、ゲーム理論がどのように使われているか楽しく理解することができます。
ゲーム理論というものがどのようなものかを直観的、視覚的に体感したい方におすすめです。
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